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'''ジョック'''(Jock)とは、[[アメリカ合衆国]]における[[人]]の[[タイプ|類型]]のひとつで、狭義では[[アスリート]]の[[男性]]を指し、広義ではしばしば同国の[[社会]]―特に[[学校]]社会のもとでの、[[スポーツ]][[マン]]を主とする『人気者の[[男性]]』を[[名詞]]として総称する。<ref>単語としての『ジョック』の起源は、男性用[[下着]]（[[スポーツ用サポーター]]）の[[ジョックストラップ]]{{lang|en|(jockstrap)}}にある[http://www.etymonline.com/index.php?search=jock&searchmode=none]。他の用法については[[ウィクショナリー]]の[[wikt:jock|jock]]を参照。</ref>

アメリカ合衆国の社会、特に学校社会の[[ヒエラルキー]]の頂点に位置するジョックは、対概念たる[[ナード]]とともに、アメリカ合衆国の社会・[[文化]]の最たる象徴の一として語られもする。

[[画像:Hischool football sunset.jpg|thumb|right|230px| ジョックの象徴と捉えられる[[アメフト|フットボール]]選手]]
==概論==
ジョックという概念は学校文化(''School culture'')、特に[[高等学校|高校]]文化に深く根ざしたもので、これを抜きに論ずることはできない。

アメリカ合衆国の一般的な学校（特に高校）社会では、各々の[[生徒]]の特質によるところの[[階層]]というべきものが形作られる。これら各々の階層への帰属がその生徒の学校生活の様相を決定し、また学校生活の様相によってその生徒の属しうる階層が決定される<ref name="r5">『The Truth About High School.』 Newsweek [[1999年]][[5月10日]]版 (P.56-58) （[[英語]]） - [[Newsweek]]</ref>。
[[画像:Mercer Island High School Cheerleaders.jpg|left|thumb|180px|ジョックとの仲睦まじき『[[女]]の頂点』 - [[チアリーダー]]]]
多くの場合において5段階程度に分かれるものと見られるこれら階層は、異階層間の交流関係を主従-対立という[[上下関係]]に基づくそれのほかにほとんどとして持たないもので、呈するその様相は『厳然たる階級社会』と表現される（後述）<ref name="r5"/><ref name="r6">『[http://www.paulgraham.com/nerds.html WHY NERDS ARE UNPOPULAR]』（[[英語]]） - [[ポール・グレアム|ポール・グラハム]]</ref>。

そしてその頂点に位置するのが[[体育会系]]の男子生徒らとそれを補佐する[[チアリーダー]]の女子生徒らの属す階層であり、前者を指してジョック、前者の属す階層または、前者を集団的にジョックス(''Jocks'')という。

平たくは人気者集団（''Popular group''∨''Popular clique''）といえるもので、これに属するための[[教育]]（[[訓練]]）が[[幼児]]の時期から行われるほど、アメリカ社会の[[メインストリーム]]（[[王道]]）として、一般的なアメリカ社会の多くの[[親]]が自らの子に望む道であるという。つまりは[[アメリカ合衆国#国民|アメリカ人]]の生き方の[[花形]]にあたるこの栄光を得るための熾烈な競争が幼少の時期から始まるのである。

一方、なれなかった者からすれば非常に面白くない存在であり、こうした文化は[[コロンバイン高校銃乱射事件]]のような凄惨な事件を生む要因ともなった（後述）
<ref name="r5"/><ref name="r3">『アメリカ横断TVガイド』 〔ISBN 4896914848〕 - [[町山智浩]]</ref><ref name="r2">『そしてぼくは銃口を向けた』 〔ISBN 4794210108〕 - [[飯塚真紀子]]</ref>。

==様相==
学校内での数において相対的に一握りに過ぎないジョックスは、そうありながらもその学校内での絶大な権力を持ち、しばしば支配者としての振舞いを見せる。最たる特徴としては、『長身』、『筋肉質』、『容姿端麗』、『スポーツ万能』、『溢れる性的魅力』、『傲岸不遜』、『とにかく女子にモテる』などといったものに加えて、次のような要素がその特徴としてよく挙げられる。
*旺盛な[[差別]]意識。
*二言目には『ファゴット』(''[[:en:Faggot (epithet)|Faggot]]''；[[ゲイ]]や『軟弱者』を指す[[スラング]]。意訳では「オカマ野郎」）の罵声。→[[ホモフォビア]]
*[[男尊女卑]]
など<ref name="r3"/><ref name="r2"/>。志向面における傾向としてよく挙げられるその特徴には、肉体的で派手な外観の女性を好み、音楽を嗜む際には爽快感のある[[ポピュラー音楽]]を、特には[[ラップ|ラップ・ミュージック]]を好み、殊更に[[競争]]を好む、といったものがある。<ref>Defined [http://www.urbandictionary.com/define.php?term=Jock Jock] - [[:en:Urban Dictionary|Urban Dictionary]]</ref>

==対概念；ナード==
[[画像:Goth-p1020641.jpg|thumb|right|『はみ出し者』『ルーザー（敗者）』の典型に譬えられる[[ゴス (サブカルチャー)|ゴス]]]]

ジョックという存在の対極として語られるのが『[[ナード]]』という存在である。

{{See also|ナード}}

ナード(''Nerd'')とは、明瞭なる定義は存在せぬものの、一般には『[[スポーツ]]を不得手とする種類の者』、特には『スポーツ以外の[[趣味]]に打ち込む者』のことで、しばしばジョックと二項対立をなす存在として、そのなかでジョックに虐げられる存在として語られる。背景には、スポーツ以外の『情熱的な趣味』を持つ者をあくまで[[変人]]であると見做す風潮があり、加えて、その者が持つ趣味の『[[知識]]』の要求の度合いが大なればなるほど、その者が受ける他者からの『ナード』としての認識も強くなり、もって『ジョック』の対極に近づいてゆく。<ref name="r5"/><ref name="r6"/><ref name="r7">『GEEKS ギークス ― ビル・ゲイツの子供たち』 〔ISBN 4870314576〕 - [[ジョン・カッツ]]</ref>
[[画像:Lam2.jpg|thumb|left|[[コンピュータ]]・ギークの[[ヒーロー|星]]、[[ハッカー]]（[[エイドリアン・ラモ]]）]]
例として、
*[[ギーク]]（コンピュータ系[[オタク]]など）
*あらゆる[[文化系]]
*[[音楽]]系（[[パンク・ロック|パンク]]、[[ヘヴィメタル|メタル]]、[[エモーショナル・ハードコア|EMO]]などに代表される、[[ロック (音楽)|ロック]]系統の特定の音楽に傾倒する者）
*[[バンド・ギーク]]（[[吹奏楽]]、[[マーチングバンド]]などに携わる者）
*[[ゴス (サブカルチャー)|ゴス]]
*[[インテリ]]
などが挙げられる『ナード』は、[[男]]の[[王道]]たるジョック、[[女]]の[[花道]]たるチアに対して、これら『メインストリーム』から外れた[[二流]]の者の至る道―平易には『敗者の受け皿』であるとしばしば捉えられる。<ref name="r5"/><ref name="r6"/><ref name="r3"/><ref name="r2"/>

ジョックス対ナーズという対立の図式は、高校や[[大学]]などの学校社会のみならず、アメリカ合衆国の社会や文化を語るうえでの欠かせない要素であると言われる。例えば、[[政治]]を語るときに[[リベラル]]（[[左派]]）の多くがナードを出自とするということは無視できず、[[大衆文化]]を語るときにほぼ全ての[[文化人]]がナードを出自とするということは無視できない、などである。<ref name="r3"/><ref name="r2"/>

多くの同性愛者らも、ジョックに性的関心や憧れを抱くと同時に、ジョックらからいじめや無関心な態度をとられることがしばしばである。ゆえに合衆国の社会における性的マイノリティーの立場を彼らが初めて体感する相手でもある。

==階層構造の図象==
アメリカ合衆国の学校社会において形作られる[[ヒエラルキー]]の序列は概ね次のように捉えられる。<ref name="r5"/><ref name="r8">『ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて』　〔ISBN 4336047480〕 - [[長谷川町蔵]]/[[山崎まどか]]</ref>
*'''ジョック'''(''Jock'')
*クイーン・ビー(''Queen Bee'')；直訳では『[[女王蜂]]』、意訳では『学園女王』。溢れる[[カリスマ]]と美貌。多くの場合[[チアリーダー]]の、稀に[[演劇部]]の最上位。総称クイーンズ(''Queens'')<ref>http://wanpaku-web.hp.infoseek.co.jp/movie/loser/loser.htm</ref>。
*[[サイドキック|サイドキックス]](''Sidekicks'')；クイーン・ビーの[[脇侍]]。
[[画像:SPOTUS.png|thumb|right|500px|青；男子　桃；女子　緑；男女双方にあり得る。なお、形が[[ピラミッド]]型であるのは便宜のためであるに過ぎず、必ずしも各層の厚みを意味してはいない。[[ポール・グレアム|ポール・グラハム]]などはこれについて、おおよそ[[洋梨]]のような形を持つのではないかと推測している<ref name="r6"/>。]]
*プリーザー(''Pleaser'')；女子の場合はクイーン・ビーおよびサイドキックスの取り巻きで、取り巻きながらにねだること(Please)もできる立場。男子の場合は、下の立場の者へのたかり(Please)を活発に行う、ジョックの[[子分]]。
*ワナビー(''Wannabe'')；クイーン・ビーおよびサイドキックスの取り巻きで、取り巻きながらも立場の上昇―サイドキックス化―を夢見る(Wanna be)立場。
*メッセンジャー(''Messenger'')；[[パシリ]]の者。
*プレップス(''Preps'')；[[文化系]]の上澄み、[[ボンボン]]。プレッピー（''Preppy''）とも。[[予備校]]（''Prep school''）から。
*[[スラッカー]](''Slacker'')；ヌケサク、馬鹿。
*[[ギーク]](''Geek'')；[[オタク]]など。
*ゴス(''Goth'')；[[ゴス (サブカルチャー)|ゴス]]。
*ブレイン(''Brain'')；[[ガリ勉]]。
*被虐者(''Target'')；[[いじめ]]の標的。必ずしも[[ナード]]に属するとは限らない。
*[[不良行為少年|不良]](''Bad boys&girls'')；[[不良少年]]および[[不良少女]]。[[ギャングスタ]]など。階層外(''The Out of caste'')。
*[[不思議少女]](''The Floater'')；典型は[[図書館]]の[[司書]]。階層外。
こうした階層構造の様相と、その各々の構成者達の類型については、アメリカ合衆国の社会において一般性の高い[[ステレオタイプ]]であることから、[[大衆文化]]の枠内においては、[[学園]]を舞台とする[[物語]][[作品]]などでの常道たる題材・素材となっている。<ref name="r8"/>

==大衆文化==
合衆国の[[映画]]や[[テレビシリーズ]]（[[テレビドラマ]]）など―すなわち映像作品群などでは、[[青春]]をテーマにしたものを除けば、必ずといってよいほど悪者として登場し、ことに[[ホラー映画]]などではしばしば殺害（[[自殺]]含む）の対象となる。その背景には、[[テレビディレクター]]や[[映画監督]]といった職業の多くが[[ナード]]出身者で占められているという事情、また、比率からして[[視聴者|受け手]]の多くが非ジョックスであるということを念頭に置いた、[[マーケティング]]の点での事情があるものと見られる。<ref name="r3"/>

題材とする娯楽作品は枚挙に暇がないものの、近年のものでは、『[[ミーン・ガールズ]]』、『[[パパにはヒ・ミ・ツ]]』、『[[ナーズの復讐]]』、『[[ハイスクール・ミュージカル]]』、『[[バフィー 〜恋する十字架〜]]』などといった映像作品群がその典型として名高く、ジョックとあわせてナードという表現も劇中に登場する。

対する『ナード』に焦点を当てた近年のものとしては、[[コメディ]][[ミュージシャン]]の[[アル・ヤンコビック]]が発表した『{{lang|en|[[White & Nerdy]]}}』という楽曲が[[ポピュラー音楽]]の舞台に名高い<ref name="billboard_Yankovic">『[http://www.billboard.com/bbcom/discography/index.jsp?aid=795967&pid=117443 Discography - "Weird Al" Yankovic - Straight Outta Lynwood]』 - [[ビルボード]]</ref>。その[[ミュージック・ビデオ|映像]]<ref>{{YouTube|-xEzGIuY7kw|"Weird Al" Yankovic - White & Nerdy}}</ref>を主因として好評を博すに至ったこの作品は、『ナード』の最たる典型像としての『ダサくひ弱な[[白人]][[ギーク]]』たちが、それとおおよそ遠く懸け離れた<!--この部分の日本語出典：http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20061029 - [[町山智浩]]-->存在（→[[ねじれの位置]]）としての[[ギャングスタ]][[ラッパー]]たちと共演するもので、その[[シングル盤]]はこれを収めた[[アルバム]]とともに、その発売からたちまち[[ビルボード]][[HOT 100]]に代表される数多の[[チャート|音楽チャート]]を席巻することとなった<ref name="billboard_Yankovic"/><ref>[http://www.myspace.com/whiteandnerdy White & Nerdy] - [[MySpace]]（[[アル・ヤンコビック]]）</ref>。

==事件==
{{cquote|Everyone with a white cap or baseball cap, stand up ! All the jocks stand up !<br />

白帽子か[[野球帽]]をかぶってる奴、全員立て！　ジョックども、全員立て！
|4=エリック・ハリス(Eric　Harris) & ディラン・クレボルド(Dylan Klebold)<br />[[1999年]][[4月20日]]、[[コロンバイン高校銃乱射事件]]の現場にて}}

その数24名の重軽傷者、そして13名の死者を出すという、アメリカ史上最悪級の学校事件となった[[コロンバイン高校銃乱射事件|コロンバイン高校における銃乱射事件]]は、ジョックの横暴に抗うとの旨の『トレンチコート・マフィア』という[[自警団]]を結成した、エリック・ハリスとディラン・クレボルド([[:en:Eric Harris and Dylan Klebold|Eric Harris and Dylan Klebold]])という2人の少年によって引き起こされた。
[[画像:HOPE Columbine Memorial Library.jpg|left|thumb|160px|The HOPE Columbine Memorial Library]]
惨劇の舞台となった[[コロラド州]]のほぼ中央のジェファーソン郡に位置するコロンバイン高校は、スポーツ強豪高校として[[体育会系]]を尊ぶ気風が伝統的に色濃く、ジョックにあらずはあくまで脇役、[[教師]]も『ジョック』を最高の生徒像を体現する存在として優遇するような校風であった。

そのような環境のさなかにあって、小突かれ、虐げられる一介のナードとして辛苦の日々を送っていたハリスとクレボルドは、その長年にわたる怨恨の念を[[暴力]]という手段で爆発させ、怨恨の積もった場所で[[銃]]を乱射し、怨恨の積もった場所に暮らした者達のうちの数多を殺め、やがては各々自らの手で、生きた自らの『唾棄すべき人生』に終わりをもたらしたのであった。

[[20世紀]]末のアメリカ社会を震撼させたこの事件は、[[銃社会]]の孕む問題点はもとより、ジョックを頂点とする学校文化、階層構造を帯びた学校社会が孕む深刻な問題を浮き彫りにした事件であると、そして同国のあらゆる学校で発生しうる事件であると、しばしば語られた。

<ref name="r2"/><ref name="r1">『[http://slate.msn.com/id/2099203/sidebar/2099208/ Columbine Myths debunked]』（[[英語]]） - [[Slate]]/[[MSN]]</ref><ref name="r4">『コロンバイン・ハイスクール・ダイアリー』 〔ISBN 4872338367〕 - [[ブルックス・ブラウン]]</ref>

==脚注と文献資料==
<div class="references-small" style="-moz-column-count:2; column-count:2;"><references /></div>

[[Category:アメリカ合衆国の文化|しよつく]]
[[Category:スポーツの文化|しよつく]]
[[Category:性格|しよつく]]

[[de:Jock]]
[[en:Jock (athlete)]]
{{Wikipedia/Ja}}